The Japanese Journal of Getemonology
1999, Vol. 0, No.0, 0-1
原著


キムチ牛丼上の問題点について *1)

静岡大学情報学部 高橋 晃


The problem of the Kimuchi-Gyuudon-the-Great

Akila Takahasi (Department of Information, Shizuoka University, Jo-hoku, Hamamatsu, 432-8011)


 The Gyuudon is the good junk food in Japan, and in these days, more tasty kind of "Kimuch-Gyuudon" becomes populer. In this paper, I tried to enrich this "Kimuchi-Gyuudon", the Kimuchi-Gyuudon-the Great" that contains Kimuchi, Natto, an raw-egg, and hot Ichimi-Tongarashi spice. As a result, Natto shuold not be contained with Kimuchi, because the Natto was not hot.

Key words: Gyuudon, Kimuchi, Natto, brain, memory & cognition(うそ).


 牛丼については大衆的な食物であるイメージが頒布しており,なかでも独身者の男性が深夜に摂取する食品として知られている.その理由として、店舗の営業時間が長く、また注文から品物の出現までの時間が短期であること、安価でかつ量が多く、かつ動物性蛋白質を含む,等の側面が考えられる.*2)

 高橋(1994)において開発された“納豆牛丼”については、一般的な支持こそ 少ないものの、とりあえずそういう食べ方をしている人もいないではないよう である.しかし、最近牛丼においてキムチを付加した“キムチ牛丼”という 新規のバリエーションが出現した(すき家,1998).キムチの酸味と辛味が 牛丼の味を引き締め、よりいっそう牛丼の人気はあがりつつある.

 伊津野(1999)は,前出の納豆牛丼とこのキムチ牛丼の融合により、“キムチ牛丼上”を完成させることを目的とした実験を行った.しかし、そこにおいては初期投入の唐辛子の量があまりにも多すぎるという問題点が認められた.本質的に味を評価する必要がある場合には、唐辛子のような刺激のある香辛料の投入は摂食の途中から行うべきであると考えられた.本論文においては、伊津野(1999)の唐辛子の投入タイミングを遅らせた条件の追試を行うことにより、このキムチ牛丼上のより正確な評価および完成を目指すことを目的とした.



実験1

方法

場所 静岡県浜松市

日時 1999年9月

手続き  すき家における標準手続き(Sukiya Standard Procedure, SSP)に準じた.まず駐車場に自家用車を駐車し,消灯等の確認をし,店内に入った.店頭入り口において空席の確認をし,入り口正面奥側に着席、さらにアルバイト店員のプロトコルに則り、キムチ牛丼、納豆、生卵を順次注文した.このとき店員を焦点のあわない目で見るともなく見つめた.次にしばらく茶をすすりつつ、眼鏡を外して目のマッサージをした.さらに,運ばれて来たトレイを受け取ろうと手を下から出しかけたが、それは別の席の人のものだったため、手をしばらくふらふらと中空にさ迷わせた*3).トレイが到着し、あらためて眼鏡をかけ、到着した物品の確認を行った.物品には問題を認めず,即時摂食準備段階に入った.わりばしを利用してキムチ牛丼の中央にくぼみを作成し,さらにそれを丼の底に達するまで掘り下げた.次に納豆を取り上げ、わりばしで2.4cycle/secの速度で撹拌した.20sec後に一度撹拌を止め、少量の醤油ならびに辛子を投入、さらに10sec前と同じ速度で撹拌した.出来上った納豆は、牛丼の中央の穴に投入した.生卵については、既に割ってあったため、あらためて割る必要はなかった.このため、納豆の上からの生卵の注入はスムースに行われた.摂食準備段階においては問題はなかった.次に具体的摂食段階に入った.はじめに牛丼上層部に展開されているキムチの一部を摂食した.次に、卵の下層から納豆を発掘し,牛丼部分と軽く混ぜ合わせ、同様に摂食した.この調子で,キムチと牛丼、卵、納豆の各部分を適度に撹拌し、節食を続けた.全体の約60%を消費した時点で,唐辛子を投入した.これは肉の残り部分が総じて赤くなる程度のものであり、赤みがなくなるたびに数回にわたってくりかえし振りかけた.そのまま種々の混合物である牛丼を消費し,その終了後、最後にひとしきりお茶を飲んだ.


結果

 牛丼自体の味は複雑化し,納豆とたまごとの調和に加え、キムチの刺激がアクセントとなっていた.さらに,投入した唐辛子により飽きることもなく,最後まで摂食行動が持続した.しかし,うまいのかと自問した場合には「どうかなあ」と思った.なお、翌日やや腹の具合が悪くなった.


考察

 唐辛子の投入のタイミングを遅らせることにより、取り合えずキムチ牛丼に納豆と卵を入れた状態での味を観察することができた.実のところ牛丼を食べているのか何を食べているのかよくわからなくなったが、しかしとりあえず食物であることがわかった.もとより牛丼に卵という組み合わせはすき焼きのそれに通じるものであり,決してげてものの組み合わせではない.また、納豆に卵というコンビネーションも同様に一般的なものである.高橋(1994)における研究は,これらの3要素が予想外に調和しない、ないしこの組み合わせに調和を感じない摂食者が多いことを示唆していた.本実験においては,これにさらにキムチという要素が加わることにより、一層混乱の度合を深めたものと考えられた.

 唐辛子投入後は、なんだか辛くてうまいと感じたが、唐辛子のカプサイシンによる脳内麻薬の分泌によって、世間的にいろいろとわけがわからなくなっていた可能性も否定できない.


実験2

 実験1のキムチ牛丼上において、構成要素数の多さによるまぎらわしさが問題とされた.そこで,実験2においては,実験1で利用した材料より納豆を削除し,より単純な形での評価を行った.

方法
日時 実験1の4日後
場所 実験1と同じく
方法 SSPに準じた.しかし今回においては、他人のトレイが目の前を横切って運ばれた場合においても比較的余裕をもって見過ごすこととした.注文内容は、キムチ牛丼、卵のみとした.その他の実験条件および手続きは実験1と同様である.


結果

 実験1と比較して、キムチの味をより強く感じることができた.また,牛丼 と卵の組み合わせも強く、一瞬だがキムチ風味のすき焼きの印象も受けた. うまいのかどうかは相変わらずよくわからなかったが、これはこれでまあ いいんじゃないかという気分になった.なお、翌日は腹の具合は正常であった.


考察

 実験1において問題とされた構成要素数の多さを,納豆を省くことでシンプルにまとめることができた.キムチ牛丼上というゴージャスな響きの割には単純にキムチ牛丼に卵を入れただけじゃんという印象もあるが,しかし納豆とキムチの相性は必ずしも良いものとは考えられなかったため、ここはむしろ要素を絞って単純に構成することに日本的な“侘び寂びゴージャスムード”を感じ取るべきではないかと思われた.

 また,実験1においては,伊津野(1999)と同様に翌日の腹の具合が今ひとつであったが,実験2においてはそのような現象は認められなかった.これについては,納豆とキムチという2種類の発酵食品を同時に摂取したことによる食い合わせなのではないかと想定されたが、本研究の条件においてははっきりしたことはわからなかった.



まとめ

 先行研究におけるキムチ牛丼上は構成要素が多く、飽きることはなかったが、全体の調和はどうかなあ、と思われた.むしろ、納豆を省いたほうが話は早いのではないかと本論文では結論づける.しかし、いずれにしても現在までのところ、この食品を摂食した被験者は2名に止まる.今後はこの“キムチ牛丼上”をさらに一般的にこの地上に敷衍することを想定し,努力を続けたい.また、懲りもせずにこのような愚かなことを書いているので“ningen.tearoom.foodsはマニアック”といわれてしまうのだろうとも 考えられた.



脚注

注1) 本研究は文部省科学研究費の助成を受けた覚えはまるでない.
注2)これについては、実際にはどのような動物の肉であるのかという疑問も出ているが,本論文ではここには触れない.
注3)このときの所在なさはいかんともしがたい.


Reference

  伊津野(1999) Re: Let's try! nntp:icho.ipe.tsukuba.ac.jp, local.note.vol082,11, University of Tsukuba.
  すき家(1998) キムチ牛丼 すき家.
  高橋(1994) Let's Try! nntp:icho.ipe.tsukuba.ac.jp, local.note_old.vol051,58, University of Tsukuba.


---- 1999.9.20 着想, 1999.12.10 適当に掲載 ----


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