札幌スープカレー記


 いつものように学会の札幌記録です。
 スープカレーを食べたことを中心として、いいかげんなことがたくさん書いてあります。


北へ。

 ひとときは北海道の秋だった。

 2008年の日本心理学会は札幌であった。  北海道という土地には出向いたことがない。そもそもどうやってたどり着くの か、という段階から謎が多かった。

 調べてみたところ、浜松から列車で行くと約半日乗り継いでいくことになるら しい。一方、空を飛んでいくとざっと3時間半ほどでついてしまうようだ。あまりのんび り行くのもどうかと思うし、自分には座り続ける体力がない。幸いにも、比較的 近所に空港があり、そこまでの直行バスも出ているので、空路を使うこととした。 出発の数日前にのこのことバスと駐車場の予約の電話をしたところ、浜松西イン ターの駐車場が5日間のうちちょうど真ん中の日曜日だけが空いていないとの ことで使えず、仕方なく浜松駅からの乗車となる。多少行程に無駄が出るが 仕方がない。もし次があるときには、もう少し早く予約をしようと思う。しかし まさか320台もある駐車場が一杯になるとは、みんな飛行機使うんだなあ、と世間 の常識を知ることになる。

 前日、例のごとく後手に回った準備をしつつ、名刺を作り、ポスターを印刷し、 インクがないのであわてて車で買いに行き、名詞のインクが触ると滲むのにげん なりし、他にもいろいろと片付けつつも、なんとか準備を終える。PCを持ってい くべきか迷うが、札幌のカプセルホテルで無線LANが使えるところがあるような ので、持って行くものとした。最近は学会カタログ(カタログ言うな!)もCD になっていて、内容をコピーしていくとあの厚い冊子自体を持っていかずに すむので楽である。
 痛む足の杖代わりに使っている「座れるかばん」スワニーがやや小ぶり なので、それほど多くの荷物を持っていくことはできそうにない。 日程分の着替えとコンピュータと、後は暇なときに読む文庫を選ぶ。 最近読み始めた「銀河英雄伝説」が面白く、その本伝の最終巻を連れて行くこと とした。

 ついでに、こちらもいつものとおり、宿と学会会場の周囲のカレー屋等を チェックする。さすが札幌、ものすごい数の店が引っかかる。どれもみな あの北海道名物「スープカレー」のようだ。期待に思わずうなる。とりあえず、 それらを適当に印刷して、カレー方面についての準備はよしとする。
 いつもどおり、宿の予約もせず、カプセルの候補を三箇所ほど見つけて これも地図を印刷し、ついでにグーグルのストリートビューで街を疑似体験 してみる。
 思ったよりも道が広く、また静かなところのように思えた。

 いろいろと荷物を確認しつつ眠り、翌朝、想定外のメールとその対応に 追われつつ、なんとか昼前後に空港行きの直通バスにもぐりこむ。

 中部国際空港までの道のりは、延々と緑の中だった。こんなに日本に緑が あるのか、と思うくらいで、沖合いの島にある空港ともあいまって、なんだか 不思議な気分になった。

 離陸一時間前に到着する。機械でチェックインした後で、ともかく昼飯を食べ る。角煮丼など食べてこの文章を書いていると、もう荷物チェックである。いろ いろと身ぐるみはがれつつ何とか通過する。タイミング的にはちょうど良い。

 待つほどもなく、もう搭乗となる。座席に座るとしばらくして加速が始まる。 通路側なので特に何も見えないが、体にかかる力で無事飛んだとわかる。そのま ま銀英伝の最終巻を読みつつ北上する。

 途中多少ゆれたりはするものの、基本的にただ座っていると90分でもう 新千歳空港である。ヒカリ号で東京まで行くのと変わりない。着陸時に妙に 耳が痛くなったが、それはさておいて、手荷物だけで大型荷物の受け取りが ないので気楽である。飛行機から降りたらまっすぐに駅に向かい、列車の シートを占める。自分がついたときには車内はがらがらだったが、出発寸前 にはすし詰め状態になっていた。荷物が小さいとこういうときに楽であると 知る。

 なかなか良いシートの列車である。そうして、夕刻の北海道をはじめて 車窓から眺めた。いろいろと余裕のあるつくりであった。道も、家も、 そして畑も山も、どれも余裕のあるつくりをしている。もしかしたら 人にも余裕があるのかもしれない。これが北海道かと感慨深い。そうこう しているうちに特急列車は札幌に着く。

 そのまま地下鉄南北線ですすきのへ。目星をつけていたカプセルホテル 「リフレ」に滑り込み、少し休み、夕食時ということもあり、早速、宿から 程近いスープカレーの店に出向いてみた。

「スープカレー」自体がはじめてであると店員さんに伝えたところ、最も標準的 な「ほぼ全部入り」のようなメニューを薦められたので、それに乗ることにする。 入ったときには人がほとんど居らず、いささか不安になった。が、時が経つ うちに次々と客が増え、あれよあれよと満席近くなる。古い一体型Macintoshが オブジェのように何台か置いてあるのが印象的だった。

 スープカレーは、たしかにスープのカレーだった。そして、具が大きく、どの 具もごろごろしていた。肉も、野菜も、玉子も、みなごろごろである。具とスー プは、単にひとつの器に入っているという以上の関係性は持てていないようでは あるが、しかしどの具もしっかりしており、また当然スープもおいしい。あれを 食べ続けていれば、いずれは体が良くなっていくのではないかという希望的観測 を持たせる料理だと思った。また明日も食べ歩こうと心に誓う。
 その後、とりあえずエスプレッソを飲みつついろいろと考え、繁華街を歩く 人々を眺めつつ歩き、宿に戻る。

 まずは風呂に入る。この手の宿としては標準的で、大きな湯船が2,3とサウナ、 スチームサウナ、シャワーなどである。軽く済ませて、次はノートPCの無線LAN を試してみる。カードを無料で借りたが実はあまり意味はなく、自前のアンテナ であっさりとつながる。暗号化も何もない。まあ建物の中だけなのでこれでいい のかもしれない。いつもと同じことを旅先でも行うのもどうかと思うが、いつも と同じことをして、眠る。


初日

 翌朝、まずは宿を出て学会会場へ。こういうときの朝飯はたいていコンビニで 握り飯となる。
 午前の部は「宇宙における人間のストレス」のワークショップに 出てみる。宇宙ステーションや訓練における具体的なトラブルなどが知れて 興味深かった。SF者の自分も、いつか宇宙にかかわるような仕事がしてみたい と思った。

 昼食はやはり大学近くのスープカレーへ。「心」の最後に空いた空席に 滑り込む。ラムのスープカレーを食べる。やはり具はすごい。味ももちろん 良い。が、昨夜の店との相違があまり感じられない。

 午後、ポスターをいくつか見る。足がつらくなってきたので休んでいるとN 君に会う。研究室の後輩である彼とは年に一度学会で会う。相変わらず元気 なようで何よりである。
 次いで、研究所時代の知り合いの味嗅覚の研究会シンポジウムに出る。 研究をしているなあ、と思う。つくばの人々の話など聞く。自分はいつの 間にか独りで遠くにいる。思えばこれもまた人生か。

 その後、人々と別れて一人“あの”獣医学部を眺めにいく。会場から近く、ご ろごろと歩いていく。「ああ、あの建物だ」と思った。病院は割りとこじんまり として小さかった。建物の前の道路をぐるりと一周回り、なんとなく納得する。 犬の散歩をしている人が一人いただけで、静かな夕暮れだった。

 それにしても、植生がぜんぜん違う。普段見ない草が道端に普通に生えている。 このころになるとようやく少し涼しくなる。実は昼間は普通に暑かった。気温は 浜松と変わらない。暑いので手に持つジャケットがじゃまで仕方がない。北海道 ってこんなものなのか、と驚く。
 後日、実はこの時期の北海道としては異常な気温だったという話を聞く。 そういうこともあるのだろうと思った。

 駅に向かっていると、またもやN君に遭遇し、彼が率いる飲み会に紛れ込む ことにさせていただく。よく見ると、周囲には古巣の筑波大学関係の皆さんが 集っている。飲み屋に出向いて、ビールと魚類をいただく。久しぶりに学問的 雑談などする。

 宿に近かったため、そのまま歩いて戻り、風呂に入り、PCをいじって眠る。


二日目

 翌朝、朝風呂などを使い、宿を出る。が、しかしこのとき、突然方向感覚がな くなり(時々あるのだが)まるで違う方向に歩いてしまう。5分でつくところを 30分かけて駅までたどり着く。駅前のCOCO一で朝っぱらから海の幸スープカレー を喰らう。

 午前中はポスター発表を見て回り、午後の自分の発表に備える。少し早めに昼 食を食べに出てみたが、よく考え見るとついさっき朝飯を食べているのである。 ともかく、会場近くの店でスープカレーの「小盛り」を頼んでみた。が、ライス が多少小さいだけで、カレー自体の量は変わらない。ここで少しつらくなる。実 のところ、ここまでどのスープカレーもうまいのだが、しかし、ベクトルが 同じで、かつ分散が小さい。言ってしまえば、どの店で食べてもうまいのだが、 そのうまさの方向性が同じであり、一軒食べても5軒食べてもみな同じである。 レベルは高い。それは認めるのだが、これでは競争にならないのではないか とすら思えた。

 気を取り直して会場に向かい、少し休んでから本番のポスター会場へ。自分は 記憶カテゴリのどん詰まりである。用意された板にポスターを貼り付けるのだが、 この板が信じられないほど固く、貼り進めるうちに画鋲を止める指が赤く 腫れ上がった。こういうことも存外ダメージになる。
 ともあれ、ポスターを貼り付けていると時間になったようで、なんだか お客が妙にたくさんやってくる。2時間のうち、本来は1時間在籍している ことが義務なのだが、お客さんの対応をして気がついたら二時間が経過 していた。こういうこともたまにはある。途中、N君とMさんが登場し、 説明もする。全体的に古巣の関係者が目立った。
 全体的な評判としては「おおむね好評、と日記には書いておこう」という 程度である。

 その後、休憩室で二人と休みつつ、自分は次を考える。
 考えた末、ポスター発表を一通り見学し、さすがに疲れたので帰る こととした。

 札幌駅でスープカレーの本を買い入れ、Mさんお勧めの回転寿司に足を運んで みる。が、これがすごい行列であった。10分ほど待って列が動かないどころか、 さらに後方に伸びていくのを見て、心が折れ、あきらめることとした。夕食時で、 どこも混んではいたものの、少し気になった中華点心系のお店で夕食を食べた。 水餃子と汁無しの坦々麺を食べ、久々にピータン豆腐をいただく。満足して店を 出る。札幌名物ではないにしても、自分にとってはいいお店だったと思った。

 その後、地下鉄ですすきのに行き、なんとなしに宿の周りをうろうろしている と、なんとまあ「メロンブックス」「アニメイト」「らしんばん」といった諸々 のそれっぽい店が集約しているビルを発見してしまう。慎重に辺りをうかがい、 一気に突入、勝手に制圧する。いろいろ眺めて店を出る。さらに、隣のブック オフにて「哭きの竜・外伝」をついつい4巻まで読んでしまう。あれは実は 「哭きの竜」で「サンクチュアリ」ないし「野望の王国」をやろうとしている のかも知れないと思い、それはそれでありだと考える。

 宿に戻って風呂に入り、カプセルで日記をつける。PCをつけ、Mさんからの メッセージに返事を書き、2chを眺めて寝る。


三日目

 翌朝、宿を出るとまたもや方向を見失い、気がつくと今度は大通り駅まで歩い ている。やはりどうもよくわからない。

 会場でポスターを眺め、ワークショップのタイトルを眺めるが、今ひとつ ぴんとこない。そこで、本を買うことに専念する。学会会場ではたいがい専門書が 割引で買える。ブースを眺めて回り、放送大学などの本を買い込む。あれは いいものだ。

 その後、休憩所で古巣の同期のY君に会い、彼の話を聞く。もう20年近くつく ばにいて、お子さんも三人、ついには並木に家まで買っているそうだ。自分とは 人生の階段の上り方がずいぶんかけ離れている。もちろんこれは自分が遅れすぎ ているのだが。互いに「厄年」ということで大変である。
 その後、疲れて少し机に伏して寝る。

 昼食に出向くのだが、目当てのスープカレーの店はどこも行列である。先に コンビニで金を下ろして一回りしてきてもまだ並んでいる。仕方なく、もう 一度あたりをうろうろしてから戻るとやっと店に入れた。途中、かばんの タイヤに油を差し、調整などしているので、すでに1時半を過ぎている。
 今回はポークを頼む。やはり美味で、そしてほぼ同じ感じだ。きちんと腹が 減っているため、素直においしい。もっと食べ慣れていけば違いが見えてくる のかもしれないが、今の自分にはこういう感想である。

 しかし、やはり北海道とは思えないほど暑い。カレーばかり食べているせいで はなかろう。おまけに足も痛い。
 もっとも、今回はカプセルホテルが連泊をさせてくれるため、荷物を ある程度ロッカーに置いておけるので楽である。ロッカーもこの手の宿に してはやや幅があり、自分のスワニーがなんとかぎりぎり押し込めた。 利便性が高い宿である。連泊となるとさらに価格も安く、場所も繁華街 で駅に近く、設備の質も悪くなく、良いところといえた。基本的には二泊三日 が単位となるようだが、連泊をフロントに一言伝えておけばそのままロッカー をキープしてくれるので、荷物を置いて出かけられる。事実上ずっと泊まって いられるわけだ。これは大変ありがたかった。不要な衣服などは置いて出かけ られるのは旅においてとても楽でよい。

 それはさておき、再び会場である。再認のfMRIをやっている人のところで少し 話をする。ぜひ再認判断のOldとNewの比較脳研究をやってもらいたい。というか、 マシンを貸してくれれば俺がやる。今やる。すぐにやる。Event-Related fMRIの 勉強しなくちゃならないけど、たぶんなんとかなる。というか、絶対何とかする。

 Mさんから連絡があり、夜の飯の話をする。お忙しいところ、わざわざ予約 をしていただき、申し訳ない。

 その後、ユーモアのワークショップに出向いてみる。が、これが見事につまら なく、ユーモアのかけらも垣間見えない発表で、あまりの退屈さに3人目までき たところでたまらず逃げ出す。ある意味すごいことだと感じた。その後は休憩し ている。大昔の学会の白黒映像を眺めつつ、昔はずいぶんとのんびりしていたも のだと思う。

 Mさんを会場の入り口で待ち、合流後に駅に向かい、予約していただいていた 炉辺焼きの店に。

 イカゴロルイベ、キンキの塩焼きなどを肴にビールをいただく。どうも腹が膨 れてしまう。チャンピオンの番長マンガの話やら、70年代後半の週間少年雑誌の 話などをしている。

 と、そこにMさんが昨日まで面倒を見ていたというクラーク大学の先生が 偶然に隣の席に案内される。そこからしばらく英語の会話になり、自分は完全に 沈黙する。Mさんはきちんと英語で話しかけていてすごいと思った。

 そのほか、大学の話をする。クラスの縦割りを作るべきという話や、学生に 大して「できないことはできない」というのはまったくそのとおりだと思った。 我々は心理学者だが、カウンセリングの専門教育を受けているわけではない。 仮に受けていたとしても、さまざまな業務をこなす中での対応には限界がある。 自分でもぼんやりと思ってはいたが、はっきりと諭されると、さすがに先輩は すごいと思う。

 9時前に二人と別れてすすきのの宿へ。あたりをうろうろとして意図的に迷っ てみたつもりが、気がつくと宿にたどり着いている。こういうところも謎であ る。
 宿に入る前に、とりあえずコーヒーを一杯、喫茶店の二階でのんびりと飲む。
 あらためて札幌の街を見下ろす。人々が歩いていてにぎやかだ。日曜日の 夜だというのに。
 札幌はおそらく住みやすい街だ。街なのだが、やはり冬の雪は多く、そこが 自分には耐えられそうにない。スープカレーも時々は食べてみたいが、時々でよ い。程よいにぎやかさで、おたく関係のショップもまとまっている。本屋が 街中で目立たないのが気になるが、おそらく駅ビルで事足りているのだろう。 女の子は平均的に割とかわいい。もっとも、自分はどこの土地に行っても 女の子はかわいいと感じるので、意見としてあまり参考にはならないことは 申し添えておく。

 宿に戻り、大きな風呂に入り、ネットをやって眠る。


帰還

 翌朝、朝風呂を浴びてから10時頃に宿を出る。ちなみに、この宿の隣は クロネコヤマトの荷物集積所なので、ここで買った本類や衣服などをまとめて 宅急便で送ってしまうこととする。これで歩くのがずいぶん楽になる。

 飛行機の出発は午後3時過ぎまで待たねばならない。札幌を午後1時過ぎに 出れば間に合う算段である。なので少し街を歩く。多少買い物をする。
 アニメイトには島本和彦コーナーがあった。さすが札幌、島本和彦の本場 であると思って感心する。
 その後まんだらけに。実はここが穴場で、画集がたくさん置いてあったので えらいことになる。すっかり困るが、一応買いたいものは買うものとする。

 その後、昼食にスープカレーをいただく。このたびで5食目だが、普通に 食べる。腹がすいていたためであろう、実にうまく感じる。そんなことをしてい たらやや時間が足りなくなり、急ぎ足でお金を下ろして札幌駅へ。

 札幌駅ですぐに空港行きの特急列車に飛び乗り、空港に着くとすぐにゲートへ。 せわしない。数分の間を縫ってみやげ物を買う。後日見てみたら、うには 「チリ産」であった。負けたと思った。ほかにはスープカレーのレトルトを いそいそと眺めたが、荷物になるので二つにとどめる。ついでに白樺エキス ドリンクというものをみつけて瞬間的に購入して試すが、実際のところ ほぼ何の味もしなかった。などなどの行事を急ぎつつも比較的平穏にこなす。
 そうこうしつつ、無事にボーイング767に乗り込むことに成功する。

 やや前方の席であったためか、スクリーンを見ることができた。機体前方に カメラが設置されているらしく、動いていく機体の正面をそのまま見ることが できる。機体が滑走路上を曲がって、ついに一直線の見晴らしが現れると、 加速が始まり、やがてあるところまでくると視野が空になる。離陸成功である。 その直後に、画面は機体の下にあるカメラに切り替わる。自分が通り過ぎていく 地表を眺めることができる算段である。緑の大地が流れていく。しばらくすると それが薄い雲にかぶる。

 飛んでしまうとすることがないので、また銀英伝の続きを読みつつ南下する。 最終巻だけに、いささか物悲しい。8巻で主人公の一人が死んでから、物語 自体がどこか要約を読んでいるかのように感じられて仕方がない。

 90分後、無事に空港に着く。
 そこから、行きと同じバスにすることを考えたが、実は単調に2時間座って いることに耐えられそうになかったので、名鉄で名古屋へ。新幹線を使えば もう少し早く浜松に着ける。ものはついでと、またもや駅ビルの上でサグ マトンカレーを食べる。悪くない。

 食べ終えて、すぐに駅に行くとホームではまさにこだま号が出発せんと していたところであった。うまいこと乗り込み、6号車付近に3列の空席を 発見して座り込む。実にせわしないが、いつもどおりの結果オーライである。 一人旅は気楽だ。

 新幹線を降りてタクシーで車を止めてある職場へ。職場から自宅へ。へとへと になっている。風呂に入ってすぐ眠る。

 翌日は幸いにも秋分の日で休みであった。一日中休息する。その翌日は大学へ 向かうが、頭も体も熱に浮かされたようにぼんやりし、何もできない。実は 相当に疲れている。
 肉を喰らい、魚を喰らい、鳥を丸ごと煮込んで喰らい、体を作る。

 もう新学期が始まる。新しい講義の準備をしなければ間に合わない。


まとめ

 スープカレーはうまい。うまいがどれもみな似ている。似ているが、どれも みなうまい。
 浜松でもときどきは食べてみたい。
 が、これから北海道でカレー店舗をやるのであれば、むしろスープカレー ではなく普通のカレー屋、できれば「日本欧風系」のしっかりしたカレーが 望ましいのではないかと思った。いわゆる「ねとねとした」カレーである。 スープカレーを食べ続けて、少し違うカレーが食べたい、特にどろどろして 甘い印象のカレーを期待する層が必ずいるのではないかと思われた。多少 高級な風が良いかもしれない。気候がたまたま暑かったためかもしれないが、 スープカレーはどれもみな一様に熱く、食べ始める瞬間に少し抵抗があった のも事実だ。人によっては辛いだろう。
 どのみち、すでに高水準のスープカレーの店舗があたりに満ち溢れて いるので、今から開店してそこに追いつくのは至難の業ではないかという 印象である。
 そして、それらの既存の店舗も、おそらくはこれから淘汰の試練が待って いることだろうと感じられた。

 もっとも、札幌でだめならさっさとほかの土地、とくに本州の中央部あたりに 移転すればよいだけの話だ。あれだけの味をもってすれば、たいていの土地で 生き延びていくことができるはずだ。素材の確保が問題になるだろうが、その 土地その土地の素材を活かして使えるのがスープカレーの良いところであろう から、それほど心配する必要もないように自分には思える。
 その意味では、むしろこれからが日本のスープカレーの時代の幕開け なのかもしれない。

 札幌という場所については、たぶんとても住みやすい場所だと思われる。ただ し、それはおそらく夏の間の半年間に限られてしまうのかもしれない。半年に わたって道が凍りつき、自転車はもちろん歩いていても油断できないというのは、 いささか温暖な静岡で暮らしている自分には心もとなさそうだ。
 が、住めば都の諺どおり、そのうち何とかなるような気がしないでもない。

 今回宿泊したカプセルホテル「リフレ」も、これまで全国で泊まり歩いた 同じようなカプセル・サウナ系の中ではもっとも気楽かつ快適なものの一つ であると個人的に感じた。価格と設備の両面からお勧めできる。駅に比較的近く、 また繁華街にあるので札幌で遊ぶ際の簡易宿泊としての利用も良いだろう。
 自分は使わなかったが、サウナの素泊まりでもリクライニングシートと テレビのついた寝床があり、その部屋には一万五千冊の漫画が棚一面に並んで いる。楳図かずおの「14歳」まであったのはすごいと思った。一万五千冊は 伊達ではない。
 実はとても人気のある施設のようなので、本来なら予約をしてから行くべき であろうか。


 北海道は、またいつかもう一度行きたい場所である。いつのことになるのか わからないのだが、次に行くときにも、スープカレーという素晴らしい 食文化が持続し、願わくばさらに発展していることを期待したい。

<完>

初出 本稿(2008.10)

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