ある男が夜、長時間の連続仕事に備えてコンビニに出向き、そこで入手したのがこの弁当であった。
それは、ピンクの覆いと、どす青いトレイからなる2段重ねの箱状の物体であった。
全体的に、ほとんど食べ物とは思えない色彩のように男には見えた。
表に女の子が一人左手を出して写っていて「12名の中から私のお弁当が選ばれました」と述べていた。この決定に至る詳細はわからなかったが、ほかの弁当がこれ以上にぶっ飛んだ食べ物らしからぬ色彩だったことは彼にも想像できた。
ピンクの箱には、それ以外にも
「愛情いっぱい」
「一生懸命作りました」(原文ママ)
そして大々的に
「あなたに食べてもらいたい!!」
と書かれていた。
そうなのか、と男は思った。
こんな自分に食べてもらいたい、と。
そこで、すでに疲れていた中年男は、それをぼんやりとかごの中に入れた。
徹夜が一つ終わり、そして日が高く上った頃、男はその弁当のことを思い出して、冷蔵庫からそれを取り出して開いた。
ふたを開けると、そこにはいろいろな具材が乗っていて、それなりに豪華であるなあ、と男は率直に感じた。
実のところ、それは存外に立派なお弁当で、確かに580円は弁当としては決して安い価格ではないものの、コロッケとから揚げとハンバーグと鮭の塩焼きと野菜入り卵焼きと煮物のそぼろあんかけとひじきの煮付けとインゲンの胡麻和えと野菜炒めと大学芋としば漬けと栗ご飯とそぼろご飯があり、そしてそこにハート型の薄焼き卵がのっていたりした。さらに、よく観察するとハンバーグにもハート型のチーズがのっていた。
「この2枚のハートがこの弁当の要、つまり『ラブラブ』なのだな」
と男にも理解ができた。
そこで、男はありがたい心持ちでそれを食べた。
男はすっかり見逃していたのだが、箱の表書きにはもう一言
「もれなく『ワンギャルカード』がついてます(ハート大小2つ)」
とあり、確かに箱の中には一枚のカードが入っていた。
そこには女の子の顔が印刷されたカードがあり、そこにはその女の子の生年月日と出身地、そして身長とスリーサイズといった開示された個人情報、そして
「Vシネマ『極妻任侠道 夜叉の舞』出演 10月発売予定」
という極めて重要なデータが提示されていた。
しかし、その女の子は表書きで『自分が選ばれた』と主張する女の子とは別人であり、男は
「これはいったいどういうことなのだろうか。このカードの女性とこのお弁当とは本質的に無関係なのではないのか。それとも、おかずの詰め合わせくらいは手伝った、ということなのか」
といささか疑問に感じながらお茶を飲んだ。
それでも、それなりに満足した男は、また午後の仕事に取り掛かったが、食事の最後に、ぽつりと、小さくつぶやいた。
「...静岡じゃ、ワンダフルやってないんだよね」
<完>