本当の話




 初めにあらかじめ断っておきますが,これからお話しすることは全て実話です.
 以上のことを認識した上で,お読み下さい.


 もう2年ほど前の話なのですが。

 私があるとき目覚めると,私の枕のところに,比較的長い髪の毛(だいたい30から40センチくらい)が落ちていました.

 これだけでは,皆様は単に「このスケベ」と思われるかもしれません.しかしこれは,私に取りましてはまことに異常な事態なのです.
 私は,女性を部屋に入れるはおろか,まともに一緒に飯を食ったことすらないと言ってもよいのです.当然,布団に髪の毛を落とされるような関係になったことはまるでないわけです.さらに,男女を問わずして,ここ数年,部屋に私以外の人物が入ったためしはまずありません.あまりまともに人を招待できる部屋ではありませんので.
 そこで,その髪の毛の出所を考えねばならないのです.私の研究室には確かに女性がおりますが,その人はショートカットです.出入りするその女性の友人も,やはりショートカットです.部屋の使用者で一人だけ比較的長めの髪の毛の方がおられますが,その方は実際にはほとんどその部屋を使いませんのでお会いすることはまずありません.つまり,日常生活において30センチ以上の長い髪の毛が衣服に付着する,と言う確率はきわめて低い,と考えられます.
 それでも,やはりどこかで何かの偶然によって,長い髪の毛が付着した,と考えることはできるのです.そこで,その時はそうして納得しました.

 それからしばらくして,ある時風呂に入っていたときのことです.私は再び,長い髪の毛が「風呂おけ」に浮いているのを発見してしまいました.長さはほとんど同じくらいでした.
 ちなみに,その日は夕方にきちんと風呂桶を洗い,新しいお湯につかっていました.つまり,風呂の掃除をしたときにはそんな髪の毛は見あたらなかったのです.風呂に入ったのは,もう一度学校に行って帰ってきてからですから,だいたい12時くらいでしょうか.
 しかも,部屋に落ちているのであれば,衣服に付いていた,と言うことで納得ができるのですが,しかしその時には風呂に浮いていたのです.つまり,服への付着ではなく,むしろ,私の身体への付着であった可能性が出てきます.
 やはり,そんなバカな,なのです.
 皆様はこうおっしゃられるかもしれません.たとえ部屋に連れ込んでいなくても,どこぞ別な場所でよろしくやっていたからに決まっている.しかし,私はこれに対してもにこやかにかつ力強く否定するのです(別にそんなに力強くするほどのことでもないんですけど).残念ながら,そうした可能性も皆無なのです.あくまで独り者なのです.
 まあ,これも偶然,と言う可能性があります.世の中偶然が重なることも希ではないのですから,まあいいか,とその時は思いました.

 その3日ほど後だったでしょうか.
 例のごとく夜中に帰り着いた私は,風呂に入り(頭を洗っていたかどうかは覚えていません.でも,ほとんど毎日洗っていますから,たぶんその日も洗っていた可能性は高いです),ついでに腹が空いたので,キムチなどをおかずに夜食を取っていました.部屋には布団を敷いてしまっていましたので,仕方なく,廊下のような台所で立ちながらぼそぼそと飯をかき込む,と言うやり方を取っていました.そこでふと,この前からの髪の毛の件を思い出して,なんか変だよなあ,どうしてあんなことが起きるんだろう,などとぼんやり考えていました.
 と,何か目の前にちらつくものがあります.やれやれ,髪の毛が抜けてしまったのか,と思い,手でさっと払ったのですが,なぜかとれませんでした.おかしい,おかしい,と2,3度手で振り払おうとして,なぜ簡単に振り払えないのか気がつきました.
 長いからだ.....
 頭を大きく振ると,明らかに私のものではあり得ない長い髪の毛が,私の頭から音もなく垂れ下がり,そしてゆっくりと床に落ちていきました.やはり長さはこの前と同じようなものでした.
 私は,夜食を取るのをやめて,すぐに歯を磨いて電気を消して寝てしまいました.


 これらの現象(長い髪の毛の出現)は未だに謎のままなのです。