その昔



 その昔,昭和30年代だろうか,当時の子供の好きなもの,ベスト3というような感じの言い回しで,こんなものがあった.

「巨人・大鵬・たまご焼」

 それに対して,2番目に好きなもの,というフレーズはこうだった.

「阪神・柏戸・カレーライス」


 さて,この中で,この平成の年代まで通用するものはどれだけあるだろうか.
 考えてみようと思う。


 とりあえず,「巨人」というチームは今でもある.「長島選手・王選手」ほどのヒーローこそいないが,とりあえずなにかと“よいしょ”されているようだし、お金を使っていい選手をどんどん取ってくるみたいだし、そういうことを考えると一応は保っていると言ってよかろう.
 しかしながら、個人的には今の子供達が「巨人大好き!」と叫ぶだろうか、という点に関してはいささか疑問だ。野球自体が昔ほどの“絶対的なメジャー性”を持っているかどうか、という点も気にはなる。スポーツ新聞にはなにかとお金の話が飛び交っていて“誰がいくらで契約更新”なんて話が記事になったり、「フロントとの確執」なんて難しい言葉がいろいろなところで聞こえてくるようなスポーツを、子供が好むだろうか。

 まあこれは置いておくとして。

 次に「大鵬」であるが,基本的にはこれは「貴乃花」と言い換えることになってしまうのだろう.今でも相撲取りの人に人気があるのは事実だ.だが、肉体的な直接戦闘を好まない“現在の子供”という人々が,果たして「何でもいいから好きなもの」というバトルロイヤル的なランキングにお相撲さんを挙げるかどうか,という点は少々疑問ではある.

 さて,「たまご焼」についてであるが,おそらく,今現在の子供の中で,この料理を「大好物」として挙げる子供はほとんどいないのではないだろうか.まだたまごがまだ高級で値段が高いものだった頃「たまご焼」という料理はおそらくめったに食べられないものであって,母親の作ってくれるあの甘い料理はとてもおいしいものだったのだろうと思う.しかし今は違う.たまごは安いものの代表になっており(そのこと自体は決してたまごの価値を落としめることはないはずなのだが),たまご焼,という料理にもあまり価値が見いだされていないように思える.
 以前見た何かの資料では、今のお子様は「ハンバーグ」を第1に挙げていた.食物の嗜好が「肉」に移行したのだが、ステーキなどの肉は固く、子供はかみちぎれない。だからある意味で“中途半端”な「ハンバーグ」という調理に人気が集まるのかもしれない。


 さて,次にそれに対する第2位グループについて見てみよう.

 「巨人」に匹敵する実力と伝統をそなえていた、はずの「阪神」は、まだ存在こそしているものの、どうも平成に入ってから振るわない。一番最近の優勝は、確か1984年だったのではなかったか。96年のペナントレースはたぶん最下位だった。おそらくここ数年はそんな感じが続いているように思える。どういうことなのか、自分にはよくわからない。

 さて、柏戸についてだが、これは当人は既に引退して久しいわけで、一方で大鵬も取り合えず貴乃花と言い換えたので、これもそれに相応するライバルに言い換えねばならないのだろう。しかし自分はどうも相撲を知らない。おそらく「曙」とか「武蔵丸」とかそういうあたりになるのか、という気がするのだけれど、実際のところはよくわからない。70年代においては、「輪島」に対する「北の海」というのは実に明白な構図だったのだが、最近はどうも不明瞭だ。

 そして、「カレーライス」になる。これは未だに文句無くこの地位を保っているといってもいいだろう。お子様にはやや辛かったりして、ある意味で「色物」なので、ナンバー1の座は確保しにくいのだが、しかしそれでも「ハンバーグ」についで第2位の座は安泰だろうと思える。カレーが嫌いで食べられない、という子供の話は自分は聞いたことがない。

 子供に限らず、日本では多くの人々がカレーを食べる。日本のお昼の何パーセントかは既にカレーで占められている、という話を聞いたことがある。食欲を誘うあの匂いと日本人に会わせた適度な辛さが、これまでの種々の人々の研究によってかなりのところに達したという証拠である。レトルトパウチの製品は、あの品数の厳しいコンビニエンスストアにすら何種類も置いてある。おまけにここ数年で倍増している印象もある。味もそんなに悪くないものが増えてきた。しばらく前に「ハヤシライス」というライバルが現われたのだが、しかしカレーライスの敵ではなかった。



 ということで、かつてのベスト3の中で生き残っているのは、巨人とカレーライスだけだろう、という印象を受ける。

 とは言うものの、どうも「巨人」に関しては、何だかむりやり昔の長島選手・王選手みたいな「ヒーロー」を持ち上げようとしては何だかうまく行かず、どうも不完全燃焼を起こしているみたいに端からは見える。長島選手は長島監督という名前で復活しているものの、そうなると逆に監督が主に注目されてしまって、選手はどうも気の毒という感じがする。ニュースの人も新聞の人も、「長島監督」を「長島選手」と勘違いしているのではないのかなあ。


 というわけで、実質的に同じ意味で生き残っているのはこの「カレー」1つだけだ。そう言ってしまおう。


 例の如く、カレー万歳、というまあ、今回もその様な方面の結論に達してそれでよしとしたいのですね。


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