初心者



 はじめに神はイトーヨーカ堂をつくられた。神はなんとなくイトーヨーカ堂が好きだったからである。イトーヨーカ堂は空しく何もなかった。やみは立体駐車場の上にあり、ぼんやりしたものが地下の食料品売り場をおおい動いていた。
 神が「プッチンプリンあれ」と言われるとプッチンプリンがあった。神はおやつにプッチンプリンを食べようとされたのである。神はプッチンとしてみたが、プリンは落ちなかった。重力がなかったためである。神が「重力あれ」と言われると、プッチンプリンは落下し、やみをどこまでも落ちていった。「しまった、皿を忘れた」と神が言うと、皿は忘れられた。
 次いで「ヘメレニあれ」と神が言われると、ヘメレニがあった。「とりあえず言ってみたけど、ヘメレニってなんだろ」と神が言うと、それは姿も意味も数も不定な存在となった。「矛盾よ生じよ」と神が言われると、様々な矛盾が生じた。「矛盾よ消えよ」と神が言われると、矛盾は全て消失した。「例のナニ、そこのところくれぐれもよろしく」と神が言われると、例のナニのそこのところがくれぐれもよろしくなった。
「やっぱりよくわからないや。マニュアルあれ」と神が言われると、よくわからないマニュアルがあった。「なるほど、よくわからないけど,最初はこうするのか。やっぱイトーヨーカ堂とかから作るのはまずかったよな。よーし、とりあえずこれまで作ったもの全部消してくれ」神がこう言われるとこれまで作られたものが全て消えた。
 神が「光りあれ」と言われると、光があった。神はその光を見てよいとされた。が、そこにヘメレニだけが残っていた。それは“もの”ではなかったたためである。光の中にヘメレニは燦然と輝いていた。神は仕方なくマニュアル通りに光を「昼」と名づけ、やみを「夜」と名づけられた。そして夕となり朝となって、一日。


<完>


初出 Cygnet9(1998)
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