第七夜




 空が光っている。

 厚い雲に覆われた暗い昼間の空が、激しく光を発している。稲光ではないように思う。音はしない。むしろ稲光よりもはるかに光の量は多い。そして何の音もしない。まるで曇の上で巨大なフラッシュをたてつづけにたいているような、恐ろしい光が絶えることなく雲を通して降り注いでくる。

 曇は実際ずいぶん厚いであろうことは、光が無い時の重苦しさでうかがい知れる。それを透過してくる光の強さもただごとではないと考える。陽というものがあるにしても、この世界ではたいした役割をはたしそうにない。

 古びた木造の下宿の二階から身をのり出して、そんな空の様子をうかがっていた自分は、目を下の並みへと移す。人道りはこんな天気にもかかわらずなかなかに多い。たいがいの人はこの光を気にもしていない。日傘をさしている誰かもいるらしく、人の頭に混じって八角形が動いてゆくこともあった。本来は健全な日の下でさまざまな色どりを示すのであろうが、この絶え間のない白光の中では、色彩はただモノトーンに還元されてしまう。灰色の人々が、まるで過去という時間の中に生きているかのように、穏やかに動いてゆく。

 光の向きが次々に変わるために、人々の影は一瞬ごとにその向きを変える。どの人の足元からも伸びている黒いものが、ひょいひょいと向きを変えては薄くなり、また別なところにひょいと現れてはまた消える。それが一斉に行われるため、何か自分がゆれているような気さえする。

 気がつくと、はるか遠くで何か異変が起こっていた。泥のように厚い雲が崩壊し、そこから白い光が物質的な圧迫感を持ってその下の街を押しつぶしていた。暗い地上にそこだけが輝く一角が出現している.そしてその輝きには不思議と温もりというものが感じられない.ぜんたいこの上では何が起こっているのだろうと自分は思った。だが答は出ない。

 部屋に入り雨戸を閉める。手さぐりで電灯をつける。部屋の真中に黄色の光が現れ、それがせま苦しい部屋の表面を照らしている。自分は、いまにあの白い光が来るなと思った。

 そして自分は待っていた。長い間待っていた。

 雨戸のすみからかすかに外の光のきらめきがもれている。

 あの光が来るまで、この夢は覚めないのだろうかと、ふと思った。





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