こうした構成の世界を“ゲーム”として捕らえた場合には、そもそも「ゲームとして成立しない」ことは明らかである。
なぜなら、大概のこうした恋愛シミュレーションゲームにおいて、最終目標が「相手の好意を得る」ことであるわけだが、その目標は最初から120%達成されているのである。
それでもなお、これはゲーム足りうるのか。
可能なのである。
「ゲームで遊ぶ」のではなく「ゲームを遊ぶ」ことで、参加者達は
思う存分楽しんだのだ。
当初の「読者参加誌上ゲーム」は、自分の好きな妹に対するメールの返事を選
択肢の中から選択し、それが当たればキャラクターに関連した賞品(特別な
キャラクターイラスト)がもらえる、
といったものであった。ただし、その難易度は半端ではなく、ヒントにもなって
いないようなヒントを頼りに、参加者は必死に推論を重ね、そして当該雑誌に添
付されている葉書のみが有効であるの参加権利書を必死に投函していた。
また、キャラクターに対する人気投票も行われ、当初から組織票が投票される事態に陥っていた。各キャラクターに対する参加者の好意の程度はこちらも半端ではなく、個人で多量の葉書を編集部に向けてたたき込む参加者すら複数存在した。
むしろ、それは“ゲーム”というよりも、妹に対する好意度を各人が様々に表現する一種の舞台装置と化していた。
あるものは葉書の枚数で、あるものは同じ雑誌を買った冊数で、あるものはイラストで、あるものは妹への想いをつづった文面で、全力で己が妹への愛を叫んだのである。
好意の上に更なる好意を無制限に積み重ねようとするこの「誌上ゲーム」をゲームと称するのはいささか問題があるという気もするが、もはやそんなことはどうでもよかった。
展開が進むにつれ、参加者はますますヒートアップした。
葉書に端正な文字で書かれた
「三十歳台管理職 全てを捨てる用意あり。」
震える文字で葉書に記された
「本に入るには とうする」(濁点すら忘れている)
誘拐犯の脅迫状のごとく、文字の切り張りで構成された
「シ ス プ リ の キ ス が お イ ラ ス ト を 下 さ い 闇 の 狩 人」
こういった、あきらかにどこかが壊れた投稿葉書が毎号のように掲載され、また読者の想いもまた以下のようなものに変質していった。
「縁談断りました!! だって僕には可憐がいるもん」
「花穂に会えたことは私にとって新しい人生のスタートだ」
「5月号の連載を読んで、あまりの衛のかわいさにベッドの上で暴れていたら、
下の階の親に怒られた。今年二十歳なのに…」
「事情を知らない友人が、咲耶を僕の本当の妹だと思っている」
「雛子と結婚します。反論不可」
「かなわない恋と知りつつも、私は鞠絵に恋をしました」
「白雪を嫁さんに欲しいです。30才までには結婚したいと思ってます」
「実妹が鈴凛に見えてきました。もう重傷です」
「住んでいたアパートが全焼した。千影、一緒に家を探してくれないか」
「源氏物語を読んだ。僕と春歌の間には何の障害もないと悟った」
「目を閉じると『チェキ!』といってオレを指さす四葉が見える。もう逃げられ
ない(笑)!」
「亞里亞ちゃんの事を考えながら夜中にコンビニに行ったら、道をふみ外して
水がはってある田んぼに落ちました。てへへ」
「僕の妹たちへの愛は増すばかりです。僕も小学五年生になりました」
どいつもこいつも、どこか幸せに狂っていた。
キャラクターへの想いで赤熱して歪んでしまったハートを、様々な行為に
よって誰もが精一杯表現していた。
曰く「G'sマガジンを56冊買った」「笑うしかない冊数買った」「一人で150枚
の組織票を送った」「こっちは250枚出した」などなどの伝説が次々と生まれて
いった。
こんなカモ達を放っておく手はさらさらなく、メディアミックス戦略は
さらに進行してゆく。