天広直人(てんひろなおと)は、おそらくこれがメインのデビュー作となる若手のイラストレーターである。それ以前はアシスタント経験があるだけで、またコンピュータグラフィックはそれ以前は一枚描いたことがあるだけだった、と雑誌紙面のインタビューで述べている。
イラストの特徴としては、初期段階では荒削りながら、しかし美少女キャラクターの各人の個性を表現する、魅力的なタッチがあった。
彼の描く9人(のちに12人)のキャラクターは、どれもが画面の向こう側からこちらを見つめ愛らしい表情で語りかける。これだけならばその他のイラストレーターと異なるところはないはずなのだが、しかし、彼自身のCGの才能が開花したのか同じ雑誌に掲載されている他のイラストとは別格の、はっきりした輪郭の描線がキャラクターに命を与えた。
始めのうちこそ「足首がない」「頭身と手足のバランスが悪い」などという評もあったのかもしれない。しかし、その後、枚数を重ねるごとに彼のイラストレーション技術はじわじわと向上し、当該雑誌の表紙を飾るようになる頃には、もはや欠点はたいした問題ではなくなっていた。
なんといっても、キャラクターに華がある。
カラフルなファッションに身を包んだ少女達が、各々の設定特性に似合った形で読者に微笑みかけ、影のない世界で愛らしく振る舞う。それだけで、読者である年齢層の若者たちには十分に魅力的だ。
後日談として、この作品のファン層が、いわゆる「大きなお友達」以上に
実は「ローティーンの女性」の間に広がっていた、というのも十分に理解できる
現象である。
若手イラストレーターの常として、必ずしも安定しているとは言い難い画力であったが、しかしその変化すら些細なものと感じさせるような魅力が、彼の絵には確かにあった。
この「シスタープリンセス」において、この天広直人以外に、もうひとり
イラストレーション担当が存在したことも触れておく。
雑誌連載のメインイラストレーションである天広絵の一方で、「読者参加
ゲーム」においてイラストを担当していた「霧賀ユキ」というイラストレータ
が存在する。
CGで彩色し、輪郭のはっきりした正統派の美少女イラストである天広絵と
異なり、霧賀のイラストは、キャラクターをかわいらしく崩した水彩イラストで、
コミカルなテイストを多分に含んだ内容であった。
本連載の内容においてには各々独立した存在として描かれていたキャラクター
達を、番外的なコママンガの中で一緒に登場させ、相互に交流をさせたことは、
その後のこの「シスタープリンセス」の展開において大きな影響を与えた。
残念なことに、これら『霧賀ユキのシスタープリンセスイラスト』はまとまった
本として出版されておらず、雑誌の中に埋もれたままになっているため、現在
ほとんど目にすることはできない。惜しまれる。
しかし、こうしたイラストレーションの魅力に加えて、もう一つ、この
「シスタープリンセス」には、読者に対して「致命的な打撃」となる要素が
加わっていた。
それを次の項目「キャラクターノベルス」において触れる。