1998年から1999年にかけて、「電撃G'sマガジン」という、PCゲーム系のキャラクターを扱う雑誌において、一つの「読者参加型企画」が検討された。
この場合の「読者参加型企画」とは、読者が企画紙面上に掲載された各種の
設問に対して葉書等で解答を行うことで、何らかのアドバンテージを得て、
その参加による交流で企画を成立させる、という一種の「ゲーム」である。
いわば、一般的な雑誌の読者投稿欄を、遊戯性を持たせて拡張したようなもの
であると考えてもそれほど遠くないだろう。
この雑誌においては、そうした読者参加型企画が紙面の一定の部分を占めて
おり、それ自体は珍しいものではなかった。
この会社は、そうした自らの企画から発展した作品を各種メディアに展開し、
その版権とキャラクターグッズの販売等により営業利益を得ている。いわば、
リングとルールを自分たちで作って興業を行う格闘技団体と比喩的な意味で
似ている。
ちなみに、この雑誌で扱う「キャラクター」とは、日本のPCゲーム世界におい
て一般的である「美少女系」のキャラクターを意味する。
この「電撃G'sマガジン」は、基本的に自他の作成した「美少女キャラクター」
をマルチメディア展開して売り出すことが主目的で、人気イラストレーターに
よるそうしたイラストなどが紙面に踊る雑誌である。
一般の芸能プロダクションの行っている、生身の人間を使った「アイドルの 売り出し」を「2次元キャラクター」をネタに行っている、と考えてみてほしい。 そんなことが可能なのか、と思われる方は、秋葉原などに出向いて「ゲーマーズ」 「アニメイト」などといった店名の店を遠くから眺めてみるとご理解できる だろう。そこに群れている人々の恍惚とした表情から一目で分かるのだが、 そうしたことは十二分に可能なのである。
雑誌の主眼としては、いささかほのぼのした雰囲気の中で、ゲームそれ自体を
紹介し、またはゲームがビデオ化された作品、キャラクターグッズ、あるいは
キャラクターを演じる声優、そのイベント、などを紹介している。
いわゆる「メディアミックス」戦略を、俗に言う「大きなお友達」を対象に
展開している、「メディアワークス」という会社の一連の戦略の一翼を担う
ものである。
さて、問題となるのはその『読者参加型企画』である。
奇妙だったのは、その「ゲーム」の前提となる世界設定であった。
「あなたに、ある日突然、9人の妹ができる」
妹、である。ある日突然、である。しかも9人、である。なおかつ、よりに
よって「あなたに」である。
この段階で、まっとうな世界構成としてはすでにどこかが壊れているわけだが、
とりあえずそこは脇に置いておこう。
「その妹たちは、当然のようにみんな兄であるあなたのことが大好き」
そして、それ以外の世界の状況設定はなく、あとは各キャラクターの
性格特性がキャラクターの一人称という形で数行分記述されている。
他の家族も、友人や先生、そして肝心な親の存在も一切記述されていない。
つまりは、この世界には、兄と妹しかいないのだ。
これを聞いて、普通の常識を持った人物なら「親はどこに」「なぜそんな状況に」「12人を産むためにはどういったスケジュールで」「両親は何を考えて」「そもそもどうやって育てていけば」「なぜ妹だけが立て続けに」「普通は兄と妹は仲が悪いのだが」などと「些細なこと」にとらわれてしまうものだ。
この“9名”という設定は最初の1年間に限ったものであり、2年目から
なぜか“海外から帰ってきた新しい3名の妹”が加わり、合計12名という
より大きな所帯になっているのだが、しかしその人数の変化は大勢に影響を
与えなかった。キャラクターの特殊化と差別化がやや明確になった、という
程度である。
もともとは、妹一人に対して各々兄がひとりいる、という設定だったらしいが
企画の途中から「妹12人に兄一人」というトンでも的設定に流れが変化した
ため、整合性や意味づけを問うことはほぼ無意味になっていることは触れておく
必要がある。のだが、しかし、こんなことは実に些細な点である。本当に、些細
な点なのである。
問題は何もない。
矛盾だろうが異常だろうが、設定を受け入れれさえすれば、それでいい。
一見○○じみたこの設定が、しかし、一人の新人イラストレータと、謎の文章家のために、きわめて一部にではあるが、その後とんでもないムーブメントを引き起こすことになる。
以下に、その妙な作品をいくつかのパートに分けて解説する。